泉南市立 泉南中学校の「いじめ防止基本方針」について

泉南市教育委員会に情報公開請求したところ、令和4年3月16日に泉南市いじめ問題対策委員会(教育委員会の附属機関)に配布した泉南市立 小中学校全ての「学校いじめ防止基本方針」が公開されました。


その中でも、泉南中学校の「いじめ防止基本方針」は、他の小中学校の学校いじめ防止基本方針とは大きく異なり、いじめ防止対策推進法の趣旨に反する内容で、現在泉南中学校に通っている子どもさん、保護者さん、校区の人々に関係する問題だと思われます。よって、泉南中学校のいじめ防止基本方針の問題点を公開することにしました。

以下は、公開された泉南中学校の「いじめ防止基本方針」の写真です。(令和4年3月16日時点のもの)

現在の泉南中学校のいじめ防止基本方針はこちらからダウンロードできます。



泉南中学校のいじめ防止基本方針は、3ページしかありません。それがわかるように次のページの写真も貼っておきます。

以下、令和4年3月16日時点の泉南中学校のいじめ防止基本方針の問題点を述べます。現在の同方針との違いは、最後に述べます。

いかなる法規に基づく基本方針なのかわからない


 学校いじめ防止基本方針は、いじめ防止対策推進法第13条の規定により学校が定めるものであるが、泉南中学校のいじめ防止基本方針には、「いじめ防止対策推進法」という言葉が一切登場しない。法の「いじめの定義」さえも記載がなく、泉南中学校のいじめ防止基本方針における「いじめ」が、法で規定されたものと同じものなのか、わからない。
 令和4年3月16日に泉南市いじめ問題対策委員会に配布された他の泉南市立学校の基本方針には「いじめの定義」の記載がある。
 最新の「令和6年度泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」(2024-05-17 )には「いじめの定義」の記載が存在するが、引用元を示さずにいじめ防止対策推進法の第2条第1項を引用しているため「この法律」が何を指しているのかわからない記述となっている。



文科省の「いじめの防止等のための基本的な方針」と

泉南中学校の「いじめ防止基本方針」


 学校いじめ防止基本方針の策定は以下のとおり、いじめ防止対策推進法第13条で規定されている。
第13条  学校は,いじめ防止基本方針又は地方いじめ防止基本方針を参酌し,その学校の実情に応じ,当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする。

 「いじめの防止等のための基本的な方針 平成25年10月11日 文部科学大臣決定(最終改定 平成29年3月14日)(法第11条で規定されれた「いじめ防止基本方針」以下、「国のいじめ防止基本方針」という)」は、「学校いじめ防止基本方針」について以下のように述べている。当該箇所から一部引用開始。下線は注目して欲しい箇所にこちらで加えたもの。

 学校いじめ防止基本方針には,いじめの防止のための取組,早期発見・いじめ事案への対処(以下「事案対処」という。)の在り方,教育相談体制,生徒指導体制,校内研修などを定めることが想定され,いじめの防止,いじめの早期発見,事案対処などいじめの防止等全体に係る内容であることが必要である。
 その中核的な内容としては,いじめに向かわない態度・能力の育成等のいじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりのために,年間の学校教育活動全体を通じて,いじめの防止に資する多様な取組が体系的・計画的に行われるよう,包括的な取組の方針を定めたり,その具体的な指導内容のプログラム化を図ること(「学校いじめ防止プログラム」の策定等)が必要である。
 また,アンケート,いじめの通報,情報共有,適切な対処等のあり方についてのマニュアルを定め(「早期発見・事案対処のマニュアル」の策定等),それを徹底するため,「チェックリストを作成・共有して全教職員で実施する」などといったような具体的な取組を盛り込む必要がある。そして,これらの学校いじめ防止基本方針の中核的な策定事項は,同時に学校いじめ対策組織の取組による未然防止,早期発見及び事案対処の行動計画となるよう事案対処に関する教職員の資質能力向上を図る校内研修の取組も含めた,年間を通じた当該組織の活動が具体的に記載されるものとする。


引用ここまで

 泉南中学校の学校いじめ防止基本方針は、国のいじめ防止基本方針を参酌して策定されているはずであるが、引用した内容が泉南中学校の学校いじめ防止基本方針に記載されていない。

 泉南中学校のいじめ防止基本方針で定められた事柄をわかりやすくするため、見出しを抜粋する。


はじめに

1.いじめの禁止

2.いじめ対応の基本施策

(1)いじめの未然防止

 ①いじめの未然防止の考え方

 ②いじめを許さない雰囲気を醸成する


(2)いじめ防止のための措置

 ①いじめ防止委員会を設置する。

 ②いじめ発見のための調査・アンケートの実施

 ③携帯・ネット上でのいじめ等への対応した講演会や研修会を実施

 ④いじめ防止に向けた計画的な取り組み


(3)いじめを認知した場合の措置


(4)重大事態への対処


「対策」と「対応」

 いじめ防止対策推進法は、いじめの防止いじめの防止、いじめの早期発見及びいじめへの対処をいう。)のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的とするものであり、同法第13条で規定された「学校いじめ防止基本方針」は、「いじめの防止等のための対策に関する基本的な方針」を定めるものである。

 令和4年3月16日に泉南市いじめ問題対策委員会に配布された泉南中学校のいじめ防止基本方針が定めているのは、生徒に対する「いじめの禁止」と、「いじめ対応の基本施策」のみである。「いじめ対応の基本施策」では、「すでに生じたいじめに対して如何に応じるのかについての施策」という意味になってしまう。いじめ防止対策推進法は、「対応」ではなく、いじめの防止等のための「対策」を推進するための法律であり、泉南中学校の学校いじめ防止基本方針において、生徒がいじめを行うことを禁止し、「いじめ対応の基本施策」のみを規定するのでは、法の目的、趣旨に反している。

 以下、泉南中学校の「いじめ対応の基本施策」が、いじめ防止対策推進法や「国のいじめ防止基本方針」の規定と異なる箇所を挙げていく。


泉南中学校の「いじめ対応の基本施策」

一.「早期発見の取り組み」に該当する「施策」がない。


 いじめ防止対策推進法第8条では、学校及び学校の教職員の責務が規定されており、「学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。」と明記されている。また、同法第13条において、「学校は、(中略)当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする。」と規定されていることから、「学校いじめ防止基本方針」においては、「当該学校におけるいじめの防止の取り組み」及び「早期発見の取り組み」と「いじめへの対処」について定める必要がある。
 しかし、泉南中学校のいじめ防止基本方針は、「いじめ対応の基本施策」として、法で規定されている「早期発見の取り組み」に該当する「施策」が定められていない。「(1)いじめの未然防止」「(2)いじめ防止のための措置」「(3)いじめを認知した場合の措置」「(4)重大事態への対処」の4つの「施策」のうち、(1)と(2)は両方ともいじめの「防止」についての「施策」である。

二.「いじめ防止のための措置」の問題点


 泉南中学校の「いじめ対応の基本施策」では、「(2)いじめ防止のための措置」として、以下とおり定められている。

①いじめ防止委員会を設置する。
②いじめ発見のための調査・アンケートの実施
③携帯・ネット上でのいじめ等への対応した講演会や研修会を実施
④いじめ防止に向けた計画的な取り組み

 


1)「①いじめ防止委員会を設置する」の項目について

 いじめ防止対策推進法第22条が規定する組織は、学校が当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うために設置する組織であって、「いじめの防止」だけのために設置する組織ではない。泉南中学校の「いじめ防止委員会」が、いじめ防止対策推進法第22条に基づく組織であるとするならば、学校いじめ防止基本方針において、当該組織を「いじめ防止の措置」として設置すると定めるのは、法第22条の規定に反するのではないだろうか。

 「国のいじめ防止基本方針」は、法第22条が規定する組織「学校いじめ対策組織」の「役割」について「学校いじめ対策組織は,学校が組織的かつ実効的にいじめの問題に取り組むに当たって中核となる役割を担う」と述べ、具体的な役割を示している。泉南中学校以外の泉南市立の小中学校のいじめ防止基本方針においては、「国のいじめ防止基本方針」を参酌し、当該組織の「役割」が明記されているが、泉南中学校のいじめ防止基本方針だけ、「いじめ防止委員会」の「役割」の記載がない。

 泉南中学校のいじめ防止基本方針には、「いじめ防止委員会」の「役割」の記載はないが、「活動」として以下の4点が規定されている。泉南中学校の「いじめ防止委員会」の「活動」を規定した箇所を引用する。

<活動>
  • いじめ防止に関すること
  • いじめの早期発見に関すること
  • いじめ事案への対応に関すること
  • いじめが心身に及ぼす影響などいじめの問題に関する生徒の理解を深めること
 先述したように、泉南中学校は、学校いじめ防止基本方針において、「いじめ防止委員会」を「いじめ防止の措置」として設置すると定めている。しかし、「いじめ防止委員会」の「活動」には「いじめ防止に関すること」以外に「いじめの早期発見に関すること」「いじめ事案への対応に関すること」が含まれる。

 「国のいじめ防止基本方針」の別添2「学校における『いじめの防止』『早期発見』『いじめに対する措置』のポイント」には、「いじめの防止のための措置」として以下の ア)〜オ)が示されている。

ア)いじめについての共通理解
イ)いじめに向かわない態度・能力の育成
ウ)いじめが生まれる背景と指導上の注意
エ)自己有用感や自己肯定感を育む
オ)児童生徒自らがいじめについて学び,取り組む

国のいじめ防止基本方針の別添2に照らすと、泉南中学校の「いじめ防止委員会」の「活動」の4番目の「いじめが心身に及ぼす影響などいじめの問題に関する生徒の理解を深めること」は、「ア)いじめについての共通理解」に該当すると考えられるので、「活動」の1番目「いじめ防止に関すること」に含まれると思われるが、別立てとなっている。

 いじめの問題に関する(共通)理解は、児童生徒だけでなく教職員も、校内研修や職員会議で周知を図っていることが必要であると「国のいじめ防止基本方針」の別添2に記載されているが、泉南中学校の「いじめ防止委員会」の「活動」では、生徒の理解を深めることのみ明記されている。

 以下、参考に「国のいじめ防止基本方針」に記された学校いじめ対策組織の具体的な「役割」を要約して列挙する。

【未然防止】
✧ いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりを行う役割

 


【早期発見・事案対処】
✧ いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割
✧ いじめの疑いに関する情報や児童生徒の問題行動などに係る情報の収集と記録,共有を行う役割

✧ いじめに係る情報があった時には緊急会議を開催し、
 以下の役割を担う
  情報の迅速な共有
  関係児童生徒に対するアンケート調査、聴き取り調査等により
事実関係の把握
  いじめであるか否かの判断を行う
 
✧ いじめの被害児童生徒に対する支援、加害児童生徒に対する
  指導の体制・対応方針の決定と保護者との連携といった対応を組織的に実施する役割


【学校いじめ防止基本方針に基づく各種取組】
✧ 取組の実施や具体的な年間計画の作成・実行・検証・修正を行う
 役割
✧ 年間計画に基づき,いじめの防止等に係る校内研修を企画し
 計画的に実施する役割
✧ 学校いじめ防止基本方針の見直しを行う役割
(PDCA サイクルの実行を含む。)

「国のいじめ防止基本方針」に記された学校いじめ対策組織の具体的な「役割」ここまで。

 泉南中学校の学校いじめ防止基本方針には、「いじめ防止委員会」が組織として具体的にはどのような取組を行うのか明記されていない。泉南中学校以外の泉南市の小中学校の学校いじめ防止基本方針には、「学校いじめ対策組織」の役割や年間計画が明示されているのに、泉南中学校の同方針には記載がない。

 泉南中学校以外の泉南市の小中学校の「学校いじめ対策組織」の名称には全て「対策」という言葉が入っているが(例:いじめ防止対策委員会)泉南中学校の組織名だけ「対策」という言葉が入っていない。泉南中学校のいじめ防止基本方針のみ、「いじめ対応の基本施策」が定められているのは、記載間違いではなく、意図的に「対策」という言葉を避けているものと思われる。


2)「②いじめ発見のための調査・アンケートの実施」の項目について

 泉南中学校のいじめ防止基本方針の「(2)いじめ防止のための措置」として、「②いじめ発見のための調査・アンケートの実施」との項目があるが、「いじめを早期発見するため」であるならば、「いじめ防止のための措置」とするのではなく、「いじめの早期発見のための措置」として定めるべきである。

 誰がいじめに対処するのかを考えると、いじめを早期発見しなければならないのは誰なのか、自ずと答えが出る。「国のいじめ防止基本方針」以下のように記されている。

 いじめは大人の目に付きにくい時間や場所で行われたり,遊びやふざけあいを装って行われたりするなど,大人が気付きにくく判断しにくい形で行われることが多いことを教職員は認識し,ささいな兆候であっても,いじめではないかとの疑いを持って,早い段階から的確に関わりを持ち,いじめを隠したり軽視したりすることなく,いじめを積極的に認知することが必要である。

 このため,日頃から児童生徒の見守りや信頼関係の構築等に努め,児童生徒が示す変化や危険信号を見逃さないようアンテナを高く保つ。あわせて,学校は定期的なアンケート調査や教育相談の実施等により,児童生徒がいじめを訴えやすい体制を整え,いじめの実態把握に取り組む。

  児童生徒が行動(訴え)を起こさなければ早期発見ができないと言うのではなく、教職員の日頃の行動で見つかるいじめもあるはずである。「国のいじめ防止基本方針」の「見守りや信頼関係の構築」がそれにあたる。しかし、泉南中学校の学校いじめ防止基本方針は、生徒側の行動に関することばかりが定められており、教職員の行動(具体的に何をするのか)に関する規定がない。


3)「③携帯・ネット上でのいじめ等への対応した講演会や研修会を実施」の項目について

 泉南中学校のいじめ防止基本方針の「(2)いじめ防止のための措置」の③は、誰に対しての講演会や研修会なのかが明記されていない。法第19条では、「インターネットを通じて行われるいじめを防止し、及び効果的に対処することができるよう、当該学校に在籍する児童等及びその保護者に対し、学校と教育委員会が必要な啓発活動を行う」ことが定められていることを考慮すると、生徒と保護者に対する講演会や研修だと考えられる。
 一方法第18条第2項は、「学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校の教職員に対し、いじめの防止等のための対策に関する研修の実施その他のいじめの防止等のための対策に関する資質の向上に必要な措置を計画的に行わなければならない。」との義務規定である。
 泉南中学校のいじめ防止基本方針は、義務規定である教職員に対する研修には言及せず、生徒と保護者が対象と考えられるインターネットの研修のみ規定している。


4)「④いじめ防止に向けた計画的な取り組み」の項目について


 泉南中学校のいじめ防止基本方針の「(2)いじめ防止のための措置」の
「④いじめ防止に向けた計画的な取り組み」には、「いじめの未然防止に関する年間計画を策定し、実施します。」と記載されている。未然防止に限定するのではなく、いじめの防止等(防止、発見、対処)に係る取り組みの年間計画としなければならないはずである。当該年間計画は、法第22条で規定されている学校いじめ対策組織が策定し、実行・検証・修正を行う役割を担うことが「国のいじめ防止基本方針」で定められているが、泉南中学校のいじめ防止基本方針には、誰がいじめの未然防止に関する年間計画を策定し、実施するのかが明記さ入れていない。
 泉南市立の他の小中学校の学校いじめ防止基本方針には具体的な計画が記載されているが、泉南中学校のいじめ防止基本方針には記載がない。

三.「いじめを認知した場合の措置」の問題点

 泉南中学校の「いじめ対応の基本施策」では、「(3)いじめを認知した場合の措置」として、以下とおり定められている。

(3)いじめを認知した場合の措置
  • いじめに係る相談を受けた場合は、いじめ防止委員会へ報告するとともに、すみやかに事実の有無の確認を行います。
  • いじめの事実が確認された場合は、いじめをやめさせ、その再発を防止するため、いじめを受けた生徒・保護者に対する支援と、いじめを行った生徒へ指導とその保護者への助言を継続的に行います。
  • いじめを受けた生徒が安心して教育を受けられるよう、必要に応じていじめを行った生徒を別室で学習させるなどの措置を行います。
  • いじめ事案に係る情報を、いじめの加害、被害の生徒・保護者双方が共有するための措置を行います。
  • 犯罪行為として取り扱われるべきいじめ事象については、教育委員会、泉南警察署及び関係機関と連携して対処します。
 国のいじめ防止基本方針又は、地方いじめ防止基本方針(国のいじめ防止基本方針を参酌して策定されたもの)を参酌して、「学校いじめ防止基本方針」を策定することが、法第13条で定められている。しかし、泉南中学校のいじめ防止基本方針は、国のいじめ防止基本方針を参酌したとは思えない内容であるとともに、法の趣旨を無視して法第23条の条文の文言を切り貼りして作成されたものである。
 以下にいじめ防止対策推進法第23条と泉南中学校のいじめ防止基本方針を並べて示す。着色は古谷による。法第23条の条文の着色した箇所を組み合わせて泉南中学校の学校いじめ防止基本方針の「いじめを認知した場合の措置」が作成されている。


 法第23条第1項から第5項はいじめに対処する一連の措置を規定したもので、「児童生徒からいじめの相談を受けた大人は学校に通報すること」と、「通報等でいじめが疑われる行為を発見した学校がいじめを認知するために行う措置(いじめの事実の有無の確認を行うための措置)」と、「認知されたいじめを解消するための措置」が定められている。泉南中学校においても、法に基づきどのようにいじめを認知し、認知したいじめに対してどのような措置を行うのかを「学校いじめ防止基本方針」において明確に定めておかなければならないはずである。しかし、泉南中学校のいじめ防止基本方針には、法第23条が規定する「通報」「いじめの事実の有無の確認のための措置」「いじめをやめさせる(解消する)ための措置」の一連の措置が明記されていない。以下に、泉南中学校のいじめ防止基本方針が、法の規定とは異なる措置となっていることを示す。

1)「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」には、法第23条第1項で規定された「通報」に関する記載がない。そもそも、泉南中学校のいじめ防止基本方針には、「早期発見のための取り組み」についての記載がなく、いじめが疑われる事案の発見に関する記述がない。

2)以下のア〜エで示した理由により、「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」に記載された「事実の有無の確認」は、法第23条第2項で規定された「いじめの事実の有無の確認」とは別の「確認」である。



ア.法が規定する「いじめの事実の有無の確認」を行う事案は、「相談」を受けた事案に限らない。前項の規定による「通報」や、早期発見のための取り組みで発見した事案においても「いじめの事実の有無の確認」を行わなければならないが、泉南中学校のいじめ防止基本方針では、「相談を受けた場合」に限定しているから。

 

イ.法が規定する「いじめの事実の有無の確認」(いじめの認知)は法第22条が規定する組織で行わなければならないが、泉南中学校のいじめ防止基本方針には「報告するとともに、(中略)事実の有無の確認を行う」と記載されていて、相談を受けた誰かが「事実の有無の確認」を行うことになっているから。

 

ウ.泉南中学校のいじめ防止基本方針では、法が規定する「いじめの事実の有無の確認を行うための措置(いじめの事実があったかなかったかを確定できるように、事実関係を明らかにするための聞き取りなどの調査)」を行わずに、「事実の有無の確認」を行うことになっているから。

 

エ. 「確認」とは、「特定の事実または法律関係の存否あるいは真偽について、公の権威をもって確定する行為」とのことなので、泉南中学校の「事実の有無の確認」との表記では、「特定の事実」が示されていない「確認」となっているから。

3)「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」には、法第23条第2項で規定された「いじめの事実の有無の確認の結果を教育委員会に報告する」ことが記載されていない。


4)「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」では、どのようにしていじめを認知するのかを示さずに、いじめを受けた生徒やいじめを行った生徒への措置が定められている。



 法第23条第3項において、「いじめを受けた生徒・その保護者に対する措置」と「いじめを行った生徒・その保護者に対する措置」は、「前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合」に行うことが定められているが、「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」では、先述したように、聞き取り等の調査を行い、いじめがあったかなかったかの確認(確定)を行うことが規定されていない。



5)「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」では、いじめを受けた生徒やいじめを行った生徒への措置を「いじめの事実が確認された場合」に行うとしている。「確認」とは、「特定の事実または法律関係の存否あるいは真偽について、公の権威をもって確定する行為」だとすると、「いじめの事実が確認された」との記載では、「存否あるいは真偽」に該当する記載がなく、「いじめの事実があると確認された」のか、「ないと確認された」のかわからない。




6)「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」には、国のいじめ防止基本方針にある「いじめが解消している状態」に関する規定が存在せず、いじめが解消に至っていない段階において、学校が被害生徒に聴取を行い、被害生徒の安全・安心を確保するための措置について定められていない。



 国のいじめ防止基本方針では、いじめが「解消している」状態について、以下のとおり述べている。

 いじめは,単に謝罪をもって安易に解消とすることはできない。いじめが「解消している」状態とは,少なくとも次の2つの要件が満たされている必要がある。ただし,これらの要件が満たされている場合であっても,必要に応じ,他の事情も勘案して判断するものとする。 
① いじめに係る行為が止んでいること
被害者に対する心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネット
を通じて行われるものを含む。)が止んでいる状態が相当の期間継続していること。この相当の期間とは,少なくとも3か月を目安とする。ただし,いじめの被害の重大性等からさらに長期の期間が必要であると判断される場合は,この目安にかかわらず,学校の設置者又は学校いじめ対策組織の判断により,より長期の期間を設定するものとする。学校の教職員は,相当の期間が経過するまでは,被害・加害児童生徒の様子を含め状況を注視し,期間が経過した段階で判断を行う。行為が止んでいない場合は,改めて,相当の期間を設定して状況を注視する。
 
 
② 被害児童生徒が心身の苦痛を感じていないこと
いじめに係る行為が止んでいるかどうかを判断する時点において,被害児童生徒がいじめの行為により心身の苦痛を感じていないと認められること。被害児童生徒本人及びその保護者に対し,心身の苦痛を感じていないかどうかを面談等により確認する。


 国のいじめ防止基本方針の「いじめが解消している状態」を見ればわかるように、いじめを解消するとは、法第2条で定義している「いじめ」の状態を解消することに他ならない。「いじめ」の、法の定義は「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」である。

 つまり、いじめを解消するために学校が行う措置は、法第2条前段の加害者による行為が行われないようにすることと、後段にある被害者が心身の苦痛を感じていない状態にすることが必要である。被害者が苦痛を感じていない状態にするためには、被害者が何に苦痛を感じているのか(加害者の行為、被害者を取り巻く環境など)を被害者に確認せずには実現できない。
 国のいじめ防止基本方針の別添2には、以下のように記されている。下線は古谷による。

③ いじめられた児童生徒又はその保護者への支援
いじめられた児童生徒から,事実関係の聴取を行う。その際,いじめられている児童生徒にも責任があるという考え方はあってはならず, 「あなたが悪いのではない」ことをはっきりと伝えるなど,自尊感情を高めるよう留意する。(中略)
 いじめられた児童生徒や保護者に対し,徹底して守り通すことや秘密を守ることを伝え, できる限り不安を除去するとともに, 事態の状況に応じて,複数の教職員の協力の下,当該児童生徒の見守りを行うなど,いじめられた児童生徒の安全を確保する。

 泉南中学校のいじめ防止基本方針は、いじめの事実の有無の確認を行うための聞き取り(調査)の記載がない上に、いじめ解消のために必要な被害者への聞き取り(面談)についても定められていない。

 私見であるが、暴力は被害者の自立性や自己決定権を侵害する。支援で一番必要なのは、被害者本人がどう思っているかを一つ一つ確認し、被害者本人の決定を尊重することだと思っている。いじめの被害者も、学校へ行きたいのに行けない等、権利が著しく侵害された状態なので、回復のためにも本人の意思を尊重することは最も重要だと考えるが、泉南中学校のいじめ防止基本方針には、被害者の意思を確認するということが一切書かれていない。

 

7)「泉南市立泉南中学校『いじめ防止基本方針』」には、いじめ重大事態(法第28条第1項で規定)が生じるのを防ぐために警察署の援助を求める規定がない。



法第23条第6項は以下のとおりである。下線は古谷による。

6 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。

後段は、法第28条第1項第1号が示す重大な被害が生じるおそれのあるときに行う規定である。いじめ防止対策推進法第28条第1項第1号の規定は以下のとおりである。下線は古谷による。

いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。

法第28条第1項第1号が規定するいじめ重大事態とは、すでに重大な被害が生じた状態であるのに対し、第23条第6項の規定は、「被害が生じるおそれがあるとき」なので、未だ被害が生じていない状態のうちに、重大事態発生を防ぐために警察に援助を求めることを義務規定としている。泉南中学校のいじめ防止基本方針には、この義務規定が記載されていない。